SNSやアートメディアで見かけるトロントの壁画の中でも、幾何学模様で描かれた不思議な生き物たちはひときわ印象に残ります。
現実には存在しないような生き物たちが、街の風景に溶け込むように描かれていて、つい目が留まってしまいます。これらの作品を手がけるのが、BirdOというストリートアーティストです。
彼の作品は単なる壁画にとどまらず、都市の風景に魔法をかけるような力を持っています。
この記事では、BirdOの魅力や代表的など作品を紹介します。読み終える頃には、あなたも彼のアートの虜になっているかもしれません。
BirdOプロフィール
アーティスト名 | BirdO |
本名 | Jerry Rugg(ジェリー・ラグ) |
出身地や育ち | カナダのプレーリー地域 2001年にトロントに移住 |
活動地域 | カナダ国内を中心に世界で活躍 |
生年月日 | 非公開 |
SNSアカウント | https://www.instagram.com/jerryrugg/ |
Instagramフォロワー (2025年6月時点) | 1.9万人 |
webサイト | www.jerryrugg.com |
BirdOの活動初期とスタイルのルーツ
BirdOの芸術への興味は、意外な場所から始まりました。カナダのサスカチュワン州のプレーリー地域で育った彼が、走っっている貨物列車に描かれたグラフィティを見た瞬間です。その出会いが、後に国際的なアーティストとなる彼の運命を変えました。
2001年にトロントに移住した彼は、翌年の2002年に初めてタグを書いています。当時を振り返り本人は、「ひどい、恥ずかしいタグ」と語っています。その後DMCクルー(MQなどが所属)と6年間活動を共にしました。
BirdOは、グラフィティカルチャーが「自分の教師だった」と語るように、アートスクール等で美術教育を受けた経験はなく、ストリートで表現や技術を磨いてきました。
グラフィティカルチャー以外では、シュールレアリスム、エッシャー、ダリといった巨匠たちからも影響を受けて独自のスタイルを確立していきました。
匿名性へのこだわり
BirdOの大きな特徴の一つが、顔をマスクで覆い、匿名性を保っていることです。主にミューラルアートを行うBridOmですが、顔出しをしていません。
これは単なるパフォーマンスではありません。彼にとって「有名であることよりもプライバシーの方が価値がある」という明確な哲学があり、同時にグラフィティのルーツへの敬意でもあります。
作品と人柄のギャップ
実際に彼と対面したインタビュアーたちは、興味深い発見をしています。鮮やかで「騒がしい」印象を与える彼の作品を見ていると、制作者もエネルギッシュで派手な人物を想像しがちです。しかし実際の彼は「穏やかな落ち着き」を持った人物で、この意外なギャップに多くの人が驚いたと証言しています。
アーティストとしての哲学
現在は合法的な活動を好む彼ですが、自身を「グラフィティとミューラリズム(ストリートアート)の両方の世界を股にかける存在」と位置づけています。
彼の制作スタンスは非常に戦略的で、綿密に計画を立てます。しかし完璧主義者でもあり、自身の完成作品には「めったに満足しない」と語るほど自己評価が厳しいアーティストです。
BridOのアーティスト論
「アーティストは独立した思想家であり、物事を混ぜ合わせる役割がある。アーティストは挑戦し、混乱させ、あるいは美化すべきだ」
この言葉からは、アーティストが社会に対して持つべき責任感が伝わってきます。「挑戦し、混乱させ」る部分は、既存の価値観や固定観念に疑問を投げかけること。「美化する」部分は、世界をより美しく、希望に満ちた場所にすることを意味しているのでしょう。
実際に彼の作品を見ると、この哲学が色濃く反映されています。現実にはいない幾何学的な生き物たちは、私たちの常識を「混乱させ」ながらも、同時に街の風景を鮮やかに「美化」しているのです。
BirdOの活動範囲 作品が見れる場所
BirdOの活動範囲は驚くほど広範囲に及びます。
<カナダ国内>
- トロント
- モントリオール
- カルガリー
- モンクトン
- サスカトゥーン
- スーセントマリー
<世界各地>
- ロサンゼルス
- マイアミ
- デトロイト
- 上海
- プエルトリコ
- 西ボルチモア
- ヨルダン
- ニカラグア
- メキシコ
BridOの代表的な作品
- ディアパーク地区のタワービル作品:地域名にちなんで制作され、「トロントが表面よりも緑が多い」ことを思い出させる作品
- アンダーパス・パークの柱の作品
- ドレイク・ホテルの壁画
ディアパーク地区のタワービル作品
この作品には、カナダに生息するさまざまな動物や鳥たちが幻想的に絡み合う姿が描かれており、まるで自然と都市が融合したかのような世界観が広がります。ディアパーク(Deer Park)という地名にちなんで、動物をモチーフに制作されたこの壁画は、トロントの豊かな自然環境を再認識させてくれる存在です。
地元のニュースや観光メディアでも取り上げられ、街のランドマークとして多くの人々の注目を集めています。
アンダーパス・パークの柱の作品
公共スペースの再活性化プロジェクトの一環として制作された壁画。bridO以外にも多くのアーティストが参加したプロジェクトです。
カナダの都市計画事例としても取り上げられ、BirdOの名を広めたプロジェクトの一つです。
ヨークビル・屋上駐車場の“巨大タツノオトシゴ”
2020年、Yorkville地区の高層駐車場屋上に描かれた約15,000平方フィート(約1,400 ㎡)のタツノオトシゴ壁画。Romeo’s Ginとのコラボで制作され、BirdO自身が「これが自分の最大の作品」と語っています
社会貢献への取り組み

WWF-Canadaとの提携では、「Wildest Ride Contest」の賞品である電気自動車の屋根にオリジナルアートを制作。持続可能性への意識の高まりに応える形で、長年尊敬してきた団体との協働を実現しました。
マイアミのアート・バーゼル・フェスティバルにフィーチャーアーティストとして参加するなど、国際的なアートシーンでも注目を集めています。
メディアでの評価
BirdOは数多くのメディアで取り上げられており、WideWalls、Huffington Post、New York Timesなどで称賛されています。主要なインタビュー記事には以下があります。
- 「Speaking with Toronto-Based Jerry Rugg aka Birdo」(Street Art NYC、2017年)
- 「Q&A: birdO talks street art and wildlife conservation」(WWF.CA、2021年)
- 「Who is BirdO? A Talk with an International Muralist」(ARTORONTO、2016年)
Street Art NYC
このインタビューでは、BirdOがアートの世界に入ったきっかけ(カナダのプレーリー地域で見た貨物列車のグラフィティ)、トロントで最初の「タグ」を制作したこと、DMCクルーとの活動、合法的な活動への移行、スケッチを使用する制作プロセス、グラフィティ文化やシュルレアリスム、エッシャー、ダリからの影響、そして彼の作品の進化や社会におけるアーティストの役割について語っています。
WWF.CA

このQ&A形式のインタビューは、BirdOがWWF-Canadaの「Wildest Ride Contest」と提携したことに関連して行われました。彼は自身の作品が「シュールで幾何学的なクリーチャー」であると説明し、動物をモチーフにすることへのインスピレーション、アートの場所の選び方、顔をマスクで覆い匿名性を保つ理由(プライバシーを重視するため)、そして自然保護運動におけるアーティストの役割について語っています。
ARTORONTO
このインタビューでは、ARTORONTOのライターがBirdOのスタジオを訪れ、彼の匿名性と、作品の「騒がしい」印象とは異なる「穏やかな落ち着き」を持つ彼の人物像に触れています。
また、グラフィティとミューラリズム(ストリートアート)の間の摩擦、彼が両方の世界を股にかけていること、そしてトロントの公共アートシーンと国際的なシーンとの比較について掘り下げています。
彼はトロントを「国際的に活躍するための足がかり」と捉えていると述べられています。
挑戦し続ける姿勢
「一匹狼」を自称する彼は、大きな建物や奇妙な表面(屋上やバスケットボールコートなど)でのペイントを好み、「正直なところ、自分を怖がらせるようなことに挑戦する」と語っています。
コラボレーションについても、アーティストとしての進化の一部だと考えながらも、基本的には独立したスタンスを貫いています。
最後に
今後も「旅行し、絵を描き、お茶を飲む」ことを繰り返していくと語る彼の作品は、これからも世界各地の街角で人々を驚かせ、楽しませ、そして考えさせ続けることでしょう。
グラフィティのルーツを大切にしながら、ストリートアートの新しい可能性を追求するBirdO。彼の描く「動物」たちは、私たちの日常に小さな魔法をかけ続けています。
次にトロントを訪れる際は、街の壁に目を向けてみてください。
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